日本人の死因で心疾患は3大死因の1つになっています。心臓に血液を供給している血管を冠動脈(冠状動脈)といいますが、この冠動脈が狭くなったり、詰まってしまうことで心臓の筋肉が虚血になる病気を総称して虚血性心疾患と呼びます。虚血の症状は人によりそれぞれですが、一般的には左胸が押される感じ、掴まれるような感じ、顎や肩が痛い、体を動かすと異常に息が切れる、胸の症状に加えて冷汗といった症状がでることもあります。
虚血性心疾患の中には狭心症と心筋梗塞の2つがあり、狭心症がさらに悪化して、心筋が壊死してしまうと心筋梗塞になります。年齢を重ね、動脈硬化が進むと徐々に血管が狭くなっていきます。約1㎜程度しかない冠動脈も例外ではありません。
動脈硬化がすすみ、冠動脈が非常に狭くなると、走ったり、階段や坂を上ったり、重いものを持ったりと身体に負担をかけた時に胸が痛いという症状が起きることがあります。運動で胸が痛くなり、安静にすると胸痛が治まるという症状は狭心症では典型的にみられるもので労作性狭心症と呼ばれます。
進行すると安静の時でも胸痛が起きることがあります。胸痛の頻度が増えて、間隔が短くなっている状態の血管は、今にも詰まりそうな不安定狭心症と呼ばれる状態なのですぐに治療が必要です。
また冠動脈が狭くなっていないにもかかわらず、血管が痙攣(けいれん)する場合にも安静の時の胸痛がでます。これは冠攣縮性狭心症とよばれ、明け方や深夜就寝中に胸痛が起こることも少なくはありません。
冠動脈が詰まりかけたり、完全に詰まったりして、そこから先の心筋細胞に必要な血液量が供給できなくなると、心筋の壊死が始まります。そうなると胸痛は狭心症のようには収まることなく続くことが多いです。詰まる前の血管の狭さにより狭心症を経てから発症する人もいますが、中には狭心症はなくいきなり発症する人も少なくありません。
心筋梗塞では心筋細胞が死んでしまうために心臓の機能が一部失われてしまいます。詰まる血管の場所により広範囲に虚血が及ぶ場合には突然死の原因になったり、心不全で苦しむことになる場合も少なくありません。また、急性心筋梗塞では、最終的に約20%の人が死亡しており、その多くは発症後短時間の死亡で、命にかかわる病気の1つと言えます。
症状がとても重要です。さらに、心電図や血液検査、心臓超音波検査といった検査で診断に至ることもあれば、冠動脈CTや核医学検査といった比較的非侵襲的な検査や最終的にはカテーテル検査で診断を行います。
症状は診断の上で一番重要です。体を動かしたときに症状が強くなる、安静にすると良くなるという症状が再現性を持っている場合はまだ狭心症であることが多いです。しかし、安静でも出現して、痛みが治まらない場合には心筋梗塞になっている可能性が高く重篤な状態といえます。
(例)50代の多忙なサラリーマン 健康診断で血圧が高いと注意されているが受診していない。若いころからタバコも吸っている。通勤の駅で電車がホームに入ってくるが、エスカレーターが混んでいるので階段を急いで登った。途中で胸が痛くなり立ち止まって休憩したら痛みが止まった。最近、そのようなことが増えているように感じていたが、今日は休んでも胸の痛みが治まらなくなり、冷や汗が出る状態になっているなどです。
動いたときの胸の痛みや圧迫感、違和感、顎の痛み、異常に息が切れるといった症状がでてきた場合には早めにご受診ください。
また冷や汗をかくほどの痛みが突然出現した場合には心筋梗塞の可能性があります。その際は救急車を呼んでください。
症状が起きている間には心電図に変化が出ることが多いです。しかし、狭心症で症状が治まっている間には心電図に変化がないことも多いです。その場合には「負荷心電図」といって体を動かしながら心電図をとる検査によって診断をつけることがあります。
心筋梗塞の場合には特徴的な心電図変化が起きるので心電図で診断できることも多いです。ただし、変化が軽微な場合もあり、その際には以前にとった心電図と比較することで診断になることもあります。
普段から健康診断などで心電図をとっておくことが大切です。また、健診などでT波平低化、ST低下など指摘される場合には知らず知らずのうちに冠動脈が狭くなっていたり詰まっていたりすることがあるので精密検査をうけることをお勧めします。
虚血が起こると心臓の細胞が壊れて、採血では心筋逸脱酵素(CK(クレアチニンフォスフォキナーゼ), TnT(トロポニン))の値が高くなります。虚血を疑った場合には採血をみることがあります。
虚血が起きている部分の心臓の筋肉は動きが悪くなります。そのため、低侵襲な心臓超音波検査をすることで動きが悪いところがないかをみることで診断の助けになります。
血管にカテーテルという細い管を通し、冠動脈に造影剤を流して撮影する検査です。侵襲的な検査であり入院が必要です。カテーテル検査でとても血管が狭いところがあった場合や詰まっているところがあった場合には治療が必要となります。
カテーテルでの治療が可能な場合には狭い血管を広げ、そこにステントという金属の筒を挿入することで治療をします。
狭くなっているところの数、場所によっては冠動脈バイパス手術が選択されることもあります。この場合は心臓血管外科に入院し手術を行います。
動脈硬化が進行することで血管が狭くなります。虚血性心疾患に強く関係しているのは、主に、高血圧、脂質代謝異常(高脂血症、高コレステロール血症)、糖尿病、喫煙、家族歴などです。多くは生活習慣と関連しており、メタボリックシンドロームは動脈硬化の温床です。
普段から運動習慣、バランスの良い食事、禁煙を心がけたり、通院が必要な方は内服を行い定期的に採血などでチェックすることで動脈硬化の進行を緩徐にすることができます。また、親族に狭心症や心筋梗塞、突然死を起こした方がいるという場合は一層の注意が必要です。